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大阪高等裁判所 昭和46年(う)549号 判決 1971年10月06日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人上木繁幸作成の控訴趣意等記載のとおりであるから、これを引用するが、論旨は、要するに、一、被告人は本件土地を業務上保管した事実がないのにこれありとし、二、被告人は本件土地の売却処分行為には実質的に全く関与していないのに、これを共同正犯者としているのは、いずれも事実の誤認であり、被告人は無罪である、と主張するのであつて、これに対する当裁判所の判断は、次のとおりである。

およそ、不動産の売買、仲介斡旋及び管理を業とする者が、他人所有の土地の保管を託され、寄託の趣旨に則りこれを現実に保管しているときは刑法二五三条の業務上横領罪にいわゆる占有に当り、右の占有は、所有者から寄託されたによると第三者から寄託されたによるとを問わず、またその第三者が他人の土地を権利なくして寄託した場合においても、受託者が自己若しくは他の第三者の利を図る目的でこれを他に売却処分し、もつて不法領得の意思を表現する行為に出たときは業務上横領罪を構成すると解すべきである。

しかるところ、記録を検討し、論旨第一点について考察するに、原判決挙示の証拠によれば、本件土地308.06平方メートルは、もと吉井亀一の所有であつたが、昭和四三月三月一二日品川商事株式会社の代表取締役として同会社の営む不動産の売買、仲介斡旋及び管理の業務に従事している被告人の仲介により、安東すえがこれを宅地として転売する目的で買受けることにし、その後代金全額の支払を了したが、本件土地が当時農地であつたことと税金対策の上から、同女はこれを自己名義にすることを避け、契約上の譲受名義人を被告人として売買契約書を作成する一方、農地法の関係については、かねて昵懇の財田文夫に依頼し、取り敢えず同人を譲受人とする農地法五条の農地転用許可申請手続を為すことにし、同年四月三〇日吉井、財田の連名による許可申請を為し、同年六月二五日兵庫県知事の許可を受けたものであるところ、安東すえはもともと転売して利益を挙げる目的であつたため、買受契約後間もなく、被告人は同女から転売先の斡旋とそれまでの間本件土地を管理するよう依頼されていたもので、同年七月四日吉井から登記簿上同人の所有名義になつている本土件地の所有権移転登記に必要な登記義務者の権利に関する登記済証、同人名義の委任状、同人を譲渡人とし財田を譲受人とする売渡証書、印鑑証明書、及び兵庫県知事の右農地転用許可書の提供を受けると共に、財田から同人名義の委任状、印鑑証明書、住民登録票写を預かり、吉井から財田に所有権移転登記をするに必要なこれ等一切の書類を整えたうえ、これを司法書士大西正三に預託して安東すえのために保管する一方、自から時折り本件土地に赴き不法占拠者の有無を確かめるため見廻りを行なうなどして管理していたことが明かであつて、この点についての原判決認定の事実はすべてこれを肯認することができる。しかして、更に、原判決挙示の証拠によれば、農地転用許可申請につき財田を名義上の譲受人とするに際し、安東すえと財田間において、他に適当な買受人が見当らない場合は本件土地を財田に譲渡するが、他に買受人がある場合にはその者に所有権を移転するにつき財田は協力すべき旨の暗黙の諒解が成立していた事実をも認定し得るのであつて、かかる諒解の下に、安東すえから右書類を預り、且つ見廻りなど本件土地を管理していた場合には、他人の土地を委託の趣旨に従い現実に保管しているものというべく、本件土地に対する事実上の支配力を有する状態にあるから、被告人は刑法二五三条の業務上横領罪にいわゆる他人の土地を占有している者に該当すると解すべきである。

所論は、吉井、財田間の所有権移転登記手続に必要な右書類は、安東すえが山上仁司を介して大西に保管を依頼したものであると主張するが、原判決挙示の証拠を綜合すると、安東すえはかねてから本件土地の転売斡旋方を被告人に依頼していたため、右書類は転売の際所有権移転登記手続を履践するに必要な書類として、原判決認定のとおり、被告人にその保管を託したものであり、被告人は安東すえのため大西に預託してこれを保管していたもので、大西に預託することは安東すえの寄託の趣旨に反するものではないと認定することができる。尤も、被告人が右書類を大西に預託した席上には、山上が安東すえから本件土地の残代金を預りこれを吉井に交付するため同席しており、且つその際山上の要請で大西が安東すえ宛の右書類の領収書を作成交付した事実があるけれども、かような外形的事実から直ちに、所論の如く、安東すえが山上を介して大西に右書類の保管方を依頼したとするのは相当でない。所論は、更に、安東すえが生存中、同女の了承の下に、財田に本件土地の所有権乃至管理権が移転したものであると主張して、被告人が本件土地を管理していた事実を否定するものの如くであるが、しかし、本件土地は当時農地であつたところ、安東すえはこれを取得するにつき農地法所定の許可を受けていないのであるから、昭和四三年三月一二日吉井からこれを買受ける契約を締結しても、それは、本件土地が後に農地から雑種地に地目変更(この点は後に言及するとおりである)され農地法の制約を離れるまでの間は、たかだか、吉井に対する所有権移転請求権を有するに止まり、同女が右売買契約によつて本件土地の所有権を取得したと認定することは、そもそも、できない次第である。従つて、その限りにおいては、同女がこれを被告人に有効に寄託する権利があつたとはいえないけれども、被告人の本件土地を占有するに至つた原因が、寄託する権利のない者から寄託されたことによる場合であつても、その保管中にこれを擅に他に売却処分すれば業務上横領罪を構成することは前述の説明で明白である。しかしながら、他方、農地転用許可申請に際し、本件土地の譲渡人を吉井とし譲受人を財田とする売渡証書を作成し、吉井、財田間に売買契約が成立したかの如き形式を整えているが、これは安東すえを加えた三者間の通謀による虚偽の意思表示であること前述の通りであるから、無効である。尤も、その際、安東すえと財田間に、他に適当な買受人が見当らない場合は財田に本件土地を譲渡する旨の諒解が成立していたことも前述の通りであるが、原判決挙示の証拠によれば、しかし、その後、財田が被告人を介して安東すえに本件土地の譲受方の交渉を持ちかけ、手付金として三〇万円交付するよう被告人に預託し、且つ、その頃財田は本件土地に建売住宅を建設することを目論み僅かながら資材を運搬した事実があつたものの、安東すえとの間に手付金の額について折り合わず、その間に被告人が右三〇万円を安東に手付金として交付することなく自己の用途に費消してしまつたことなどのため、結局安東すえ、財田間においては、売買契約にまで進展しないまま終了してしまつたことが認められる。従つて、財田は、結局、本件土地を有効に買受けた事実がないのであるから、吉井、財田の連名で兵庫県知事から農地転用許可を得ていても、財田が本件土地の所有権を取得したと解する余地は全くないし、財田が専ら本件土地を管理していたと認定することもできない。論旨第一点の主張は従つてこれを採用することはできない。

次に、論旨第二点について考察するに、原判決挙示の証拠によれば、安東すえが昭和四三年一一月一五日死亡したため、被告人はその後引続き同女の養子で相続人である安藤正勝のため本件土地を占有中、菅谷政雄及び山上仁司と共謀のうえ、養母安東すえの本件土地買受のことを安東正勝が知らないのに乗じ、同人に無断で本件土地を売却しその売得金を菅谷等の用途に供しめようと企て、同年一二月二五日本件土地の登記簿上の所有名義をかねて保管中の前記書類を使用して吉井から財田に移したうえ、昭和四四年一月一八日咲田寿一に対し本件土地を代金七二〇万円で売渡す契約を締結し、同年二月一五日財田の申請名義で本件土地の地目を農地から雑種に変更する登記を了し、同月二八日本件土地を雑種地として咲田に対する所有権移転登記手続を了して売却処分行為をなしたものであつて、その間、被告人は売渡の交渉、本件土地の地目変更のための現況変更手続、及び代金の受授等に同席参画したほか、右の一連の登記手続を大西に依頼してこれを行なうなど、本件犯行の主要な部分に参画、実行していることが明かであるから、被告人を本件犯行の共同正犯者と認定した原判決にこの点の誤りはない。論旨第二点の主張もまたこれを採用することはできない。

以上、要するに、原判決には所論の如き事実誤認の廉はなく、論旨はいずれも理由がない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により、主文のとおり判決する。

(今中五逸 高橋太郎 中武靖夫)

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